それからはスープのことばかり考えて暮らしたコトコト煮込んだスープのように、
じわじわ心に沁みてきます

2018.09.20

おいしいスープをつくる
たったひとつの方法とは?

路面電車がのんびりと走り、すぐ隣の駅に古い映画館がある架空の街、「月舟町」で暮らす人々のささやかな日常を描いた連作小説。主人公は失業中の大里くん(オーリィくん)。屋根裏にマダム(大家の大屋さん)が住む教会の隣にあるアパートに、主人公が引っ越してくるところから物語は動き出します。

街を歩く人たちが手にしている「3」とだけ書かれた紙袋。いったいなんだろう?と思ったら、それは近所にある「トロア」というサンドイッチ屋さんのもので、食べてみると「それからはサンドイッチのことばかり考えて」しまうほどにおいしくて…。そんな「トロア」を営む安藤さんとその息子のリツくん、屋根裏のマダムや、オーリィくんが通う映画館「月舟シネマ」で出会う緑色の帽子のおばあさん。

ごくふつうの街で暮らす、ささやかな喜びや悲しみ、そして“おかしみ”に満ちた登場人物が魅力的で、淡々と描かれる月舟町の日常に、なぜかぐいぐい引き込まれてしまいます。「それからはスープのことばかり」ならぬ、「月舟町のことばかり」考えてしまう不思議な読後感。

料理小説ではないのに読み終わった後には、とびきりおいしいスープがつくりたくなる(つくれそうな気もする)、秋にぴったりの小説です。

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それからはスープのことばかり
考えて暮らした

著:吉田篤弘
出版:中央公論新社
価格:629円(税抜)

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