ゴースト浮遊するゴーストたちの
切なく温かい短編連作集

2021.02.25

過去に思いをはせ、
静かに自分と向き合う

いくつかの浮遊する「魂」たちが登場する7つの短編からなる連作集。ただ単にゴースト=幽霊ではなく、いずれのゴーストも怨念は残さず、ユーモアさえあり、なぜか懐かしい。読後に不思議な余韻が残る興味深い作品。例えば、都心にある元GHQの接収住宅だった古びた洋館。訪ねるたびに出くわす謎めいた女に惹かれ通いつめる男が見た、年齢の異なる三人女の幽霊の正体を追う「原宿の家」。古道具屋で見つけたミシンを軸に、昭和の女性史的な側面をいきいきと表現した「ミシンの履歴」。「きららの紙飛行機」は、戦争孤児として生き、交通事故で死んだ幽霊少年ケンタが、水商売の母親からのネグレストで、ひとりぼっちでアパートに暮らす幼子、きららの元に現れて交流する物語。当時の裏社会の隠語を使うケンタと、現代っ子のきららの噛み合ない会話や、ふたりが無邪気に遊ぶ描写は、物悲しくも温かく、心をしめつける。また、高齢のおじいちゃんが、頻繁に口にする謎の言葉の意味を孫娘が探る「亡霊たち」など―― 。いずれも過去を振り返り、故人の人生や思いをたどることで、連綿とつながる「いま」が鮮明に浮かび上がる。巻末に一部掲載された参考文献を紐解いて興味の翼を広げるのも一興。

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ゴースト

著:中島 京子
出版:朝日新聞出版
価格:640円(税抜)

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